「排出量」とは

今回のコラムでは、排出量算出・見える化計画に関して解説するのですが、そもそもこの「排出量」とは何か、というところに触れていきたいと思います。この「排出量」とはGHG(Green House Gas:温室効果ガス)の排出量のことで、二酸化炭素(CO2)をはじめとして、天然ガスの主成分でもあるメタンや、空調機の冷媒に利用されるフロン類など以下の7つの気体が法律に定められています。

 

温室効果ガス 温暖化係数 用途・排出源
二酸化炭素(CO2) 1 化石燃料の燃焼など
メタン(CH4) 25 家畜の腸内発酵、埋め立て廃棄物など
一酸化二窒素(N2O) 298 工業プロセス、燃料燃焼など
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) 92~14,800 エアコンの冷媒、スプレー、断熱材など
パーフルオロカーボン類(PFCs) 7,390~12,200 半導体製造プロセスなど
六フッ化硫黄(FS6) 22,800 電気の絶縁体など
三フッ化窒素(NF3) 17,200 半導体や液晶基板洗浄など

 

この表のうち「温暖化係数」という数値は、単位体積当たり二酸化炭素の温暖化効果を1とした時の温室効果の倍率を表しており、メタンはCO2の25倍もの温室効果があるということです。逆に言うと、1リットル(1000cc)のCO2と0.04リットル(40㏄)のメタンの温室効果が同じということがいえます。

そうした状況でもカーボンニュートラルや低・脱炭素というように、温暖化対策のターゲットが主としてCO2排出対策になっているのには以下のような二つの理由があります。

一つは、そもそもの量が多いという事で、世界の温室効果ガスの約75%は二酸化炭素だからです。もう一つは、CO2の排出量は主に化石燃料の燃焼によって生じるため、人間の生活活動や企業の事業活動に直結し、その削減対策が施しやすいからになります。メタンの排出源として大きいのが家畜のオナラやゲップといわれているのですが、家畜のオナラやゲップをコントロールするより、人間活動の化石燃料消費の対策を施す方が現実的でコントロールしやすい対策となるからです。

 

「脱炭素計画」の進め方6ステップ

前回のコラムでご説明したように、企業のカーボンニュートラル実現のためには大きく6ステップの実行計画が必要になります。
それは以下のような6ステップです。

 

 

上記の6つのステップについて計画を立てて、順次実践することにより企業のカーボンニュートラルを実現することができ、結果として企業経営におけるさまざまなメリットをもたらし、業績拡大や企業価値を高めることにつながります。
そして今回は「脱炭素計画」の第2ステップ、「排出量算出・見える化」の進め方を解説します。


 

【第2ステップ】排出量算出・見える化計画

計画の第2ステップは対策の対象となる温室効果ガス(二酸化炭素とその他温暖化に影響するガス)の現状分析です。どれだけ、どこから、なぜ温室効果ガスが発生しているのかを明確にすること、つまり現状を知ることから計画を作る事が可能になります。具体的に「低・脱炭素計画」を立てるためには、自社の企業活動から排出されるGHGがどういう状況かという事を知ることが非常に重要で、そしてその「排出量産出・見える化計画」には以下のような重要な3つの目的があります。

 

3つの目的

目的① 温室効果ガス排出の実態を明らかにする(現状分析)

カーボンニュートラル実現のための脱炭素計画を立てるためには、どれだけの計画を立てないといけないのか、即ちどれだけの二酸化炭素や温室効果ガスを削減しないといけないのかを確認することが必要になります。排出量が確認できることで、その削減対象が明らかになり、その量に応じてどれだけの対策を計画することが必要になるのかが明確になります。

 

目的② 温室効果ガス排出源(燃料・装置・場所等)の特定

2番目の目的は①において全体の排出量を算出する方法の基になる情報で、どこで、何から排出しているのかを明確にすることです。先ほどもお伝えしたように温室効果ガスGHGの排出、特に二酸化炭素の排出は石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料の燃焼によるものなのですが、対策を考えるためにはどこの場所で、どんな装置から、どれほどの量の排出がなされいるのかを知ることが必要になってきます。温室効果ガスの排出源がわからないと有効な対策を計画することができなくなるのは当然のことです。

 

目的③ 脱炭素計画の具体的対象・方法の決定

3つ目の目的は、計画の対象となる燃料・装置・場所を特定したうえで、具体的な対策方法を明らかにすることです。原因の燃料がわかれば使用量を減らす方法や燃料を変更することが対策になりますし、装置が明らかになれば、より高効率な省エネルギータイプの装置への交換、化石燃料を使用しない電動装置への転換など具体的な取り組み対策が明確になります。

次に「排出量算出・見える化計画」の具体的な方法についてまとめてみます。

 

3つの方法

方法① 企業活動における燃料使用量・電気使用量のデータ収集

先ず第1ステップとして必要になるのが、石油などの化石燃料の実際の使用量と電気の使用量の情報収集になります。温室効果ガス(主因となる二酸化炭素)の排出量は化石燃料の使用で発生するので、使用料を把握することで、効果的な対策計画をたてやすくなります。


企業における実績データ収集方法としては、会社全体における重油・軽油・ガソリン・ガスなどの購入量を経理伝票から確認算出すること、これは通常業務において問題なく収集することが可能でしょう。次に必要なのが全社の電気の使用量を算出することになります。しかしこれも化石燃料と同様に通常容易に確認することができます。こうして燃料と電気の使用量をしっかり確認することがその対策を立てるために非常に重要になります。(特に各月別・年間の量がわかるようにもしておきます)

 

方法② 使用量に応じた排出量の計算・算出(独自算出・外部ソフト活用等)

燃料や電気の使用量の確認ができれば、次にその使用量に応じた温室効果ガスの排出量を算出する作業が必要になります。化石燃料はそれぞれの燃料別に、その使用量に応じて二酸化炭素を排出する量(排出係数)が公的に決められています。Kg(キログラム)あたり、t(トン)あたり燃焼した時にどれだけの二酸化炭素が排出されるか(排出係数)が環境省によって定められているのです。

 

環境省:算定方法・排出係数一覧(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc)

 

排出量の算定は一般的には、燃料使用量×排出係数=総排出量の式で計算することで算出できます。電気の使用についても同様で、電気の使用量×電気の排出係数=総排出量という計算になります。

排出係数は各燃料別に決まっており、電気については電力会社別※に係数が異なるので、その確認が必要になります。(※電力会社別に電源構成が異なるため排出係数が異なる) 排出量の基本的な算出方法は以上の方法が基本の計算式になりますが、地域の拠点が複数あったり、燃料の種類や季節変動などに対して自社で対応することは非常に煩雑な作業になります。そうしたことから、実際には計算式が組み込まれたアプリケーションや、公的機関による無料のソフト、民間のコンサルティング企業によるクラウドを活用したサービスまで、数多く提供されています。

 

方法③ 排出源別排出量の見える化と対策への情報確認

②の方法により自社の排出量を算出し、計画の対象として削減すべき燃料の量が明確になります。即ち具体的な目標削減量が明らかになるため、対策方法も決まってくることになります。計画の対象となる場所・装置などと、それぞれの削減可能性がわかるので、燃料を転換したり、装置を交換したり、節約して使用することなどの対策を考えることができます。そして、削減対象となる排出量実態と、対策により削減された量を明確にして「見える化」することで計画の進捗・有効性と取り組みへのモチベーションを高めることが可能となります。

最後に「排出量算出・見える化」により得られる成果について確認してみましょう。

 

3つの成果

成果① 自社活動における実際の排出量の認識で削減対策の必要性を認識

最初の目的でも説明しましたが、カーボンニュートラル実現のための脱炭素計画作成は排出量の削減が最大目的です。そして、まず最初に自社の企業活動でどれだけの温室効果ガス(主に二酸化炭素)を排出しているのかを知ることで、排出量削減のための対策が必要なことが認識され、対策計画の必要性が明確になります。つまり、計画作成の目的・対象・方法の検討が明らかになって初めて計画を立てることができるのです。

 

成果② エネルギー消費削減の具体的対策の決定につながる

「排出量算出・見える化計画」を立てるという事はすなわち、排出削減のためにはどんな燃料をどれだけ削減するのか、どれだけ電気の使用量を削減する必要があるのかが明確になり、具体的対策方法が決まることになります。実際の排出量がわからなければ対策の方法・程度がわかりません。燃料の使用量を減らすことができるのか、省エネタイプの装置があるのか、装置を電動化できるのか、装置を使うことを無くすことができないのか…さまざまな検討が明確になって具体的対策が決定できるようになります。

 

成果③ 見える化による従業員の理解と取り組み促進の効果

三つ目の成果として期待されることは、排出量が見える化できることにより経営者・管理職・従業員全員が現状を認識・共有できるという点です。経営者だけがわかっていても現場が理解していなければ、また現場が困っているのにトップがわかっていなかったら対策は進みません。今後の計画全体を通じて共通して重要なのが全員が理解・共有するということ、ひいてはカーボンニュートラルや脱炭素経営が今後重要になるという会社風土を醸成する事になります。具体的には自社でこれだけの温室効果ガスが排出しているから、対策を取らないといけないと全員が思うことができるようになることです。関係者全員の理解でGXの取り組みが進むことが期待できるようになるのです。

 

ここまで「脱炭素計画」策定の第2ステップとなる排出量算出・見える化の「目的」「方法」「成果」を見てきました。また、企業が「脱炭素計画」策定をする方法、手順は概ね以下のように決まっています。

 

 

次のコラムではステップ3「燃料転換・電動化」に関して詳しく解説していきます。

 

執筆者

鷹羽 毅(たかは たけし)

略歴:神戸大学 教育学部 卒業。株式会社富士経済で環境やエネルギー、マーケティングなど長年産業調査アナリストとして各種調査に携わる

専門分野:市場調査、業界リサーチ分析、各種マーケティング戦略検討、カーボンニュートラルや低・脱炭素経営計画、事業開発のコンサルティングなど

専門業種:環境・エネルギー、エレクトロニクス、機械、素材等各種製造業やサービス業まで幅広に対応

資格:中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー、商工会議所専門相談員、産業調査アナリスト、マーケティングプランナー

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