6ステップで進める「脱炭素計画」
企業のカーボンニュートラル、低・脱炭素計画実現のためには大きく6つのステップの実行計画策定が必要になります。
それは以下のようなステップです。
- 【ステップ1】教育・研修・人材育成
- 【ステップ2】排出量算出・見える化
- 【ステップ3】燃料転換・電動化
- 【ステップ4】省エネ・節電推進
- 【ステップ5】再エネ電力導入
- 【ステップ6】制度活用・認証取得
それぞれの段階で計画を立てて、順次実践していくことにより企業活動のカーボンニュートラル実現に近づくことができ、結果として企業経営においてさまざまなメリットをもたらし、業績拡大や企業価値を高めることにつながっていきます。
そして今回のコラムは「脱炭素計画」の第3ステップ、「燃料転換・電動化」の進め方について解説していきます。
なぜ「燃料転換・電動化」か
その説明の前に、なぜ「燃料転換・電動化」なのかについて触れたいと思います。これはひとえに、企業が環境負荷低減と経済成長の両立を目指すいわゆるGX(グリーン・トランスフォーメーション)を目指して、カーボンニュートラルや低・脱炭素経営を推し進めていくにあたって重要となるのが「エネルギー源とそのエネルギーの使い方」になるからなのです。
低・脱炭素経営の実現を目指すという事は、一言で分かりやすく言えば事業活動において化石燃料の消費を少なくするということです。例えば、事業活動で使うクルマを例にとってみてみましょう。普通のクルマは化石燃料(ガソリンや軽油)をエンジンで爆発させて回転運動に変えて動きます。この回転運動を電気モーターに変えたのが電気自動車です。軽油で動いていたトラックの燃料を天然ガスに変えて環境負荷を下げるのが燃料転換、この天然ガス燃料のトラックを電気トラックに変えるのが電動化です。
一つ気を付ける必要があるのは、電気に変える事の次にその電気をどのようにして作っているかに着目する必要があります。発電するために、大量の石炭を使っていたのでは電化の意味がありません。最終的に太陽光発電や水力、風力といった再生可能エネルギーでの発電電源に変えていくことが重要になっていくのです。
【第3ステップ】燃料転換・電動化
計画の第3ステップでは対策の対象となる温室効果ガス(二酸化炭素とその他温暖化に影響するガス)の直接発生源となる化石燃料の使用を極力削減・ゼロ化を目指す具体的な対策を進めることが目的です。そして同時に代替手段として電気をエネルギーとする転換の可能性を検討することも重要で、その計画には次のように重要な3つの目的があります。
3つの目的
目的① 化石燃料燃焼による直接CO2排出をゼロにする
脱炭素計画の目的である温室効果ガスの排出削減に最も効果的なのが、石油・天然ガスなどの化石燃料を使わないようにすることになります。つまり最終的には化石燃料消費を伴わないものづくりや設備交換などを実現できるのかがポイントになります。化石燃料の使用がゼロになれば、CO2排出をゼロにすることができます。実際の化石燃料の使用については、ものづくり事業におけるプロセス・装置が中心で、業種別にはある程度限定された企業が対象になると考えられます。化石燃料を使うことなく、電動装置だけで事業ができるかどうかはその事業内容に左右されるでしょう。
目的② 水素・バイオマス・アンモニアなどの排出ゼロの燃料への転換でゼロ化を実現
2番目の目的としては、燃料の転換で排出ゼロを実現する計画です。現状の化石燃料に代わって排出がゼロになる燃料として注目されているのが水素、バイオマス、アルコールなどの代替エネルギーです。水素は燃料の代わりとして使いやすく、使用時に二酸化炭素を発生しないのが最大の特徴です。またバイオマスは木材の切りくずなどを活用する燃料を燃焼することになります。実は燃焼時に二酸化炭素を排出するのですが、木材が森林として生育していた時に二酸化炭素を吸収していたので、その削減効果と合わせて排出量をゼロとカウントすることが認められています。
また、アンモニアはNH3という分子組成から炭素(C)を含まず、燃焼時にCO2を排出しませんし、比較的軽微な改修により既存設備を活用可能なので、最近注目されるエネルギー源となっています。いずれも既存の化石燃料に対して新たな燃料として使用することで排出量をゼロにすることができるので、その代替可能性を求めているということになります。
目的③ 電動・電化への転換により今後の脱炭素対策を進めやすくする
3つ目の目的は、エネルギー源を電力に変えることができないかの検討です。一方で先ほども指摘しているように排出量の算出において、電気の使用も温室効果ガスの排出につながることになりますので、電気に変えることで直ちに排出量をゼロにすることはできません。この目的は電化によって省エネ・節電を進めやすくできること、動力を電気に転換しておくことで、再生可能エネルギーなどクリーンなエネルギー源で発電したCO2ゼロの電気を使用できるようにすることです。電気であれば今後の技術革新も含めて効率化や排出量削減・ゼロ化が進めやすくなることが最大のメリットなのです。
次に具体的にどんな方法で「燃料転換・電動化」を進めて行くことができるのか3つの方法があります。
3つの方法
方法① 化石燃料装置の省エネタイプ・消費量が少ない装置に転換する
現状の使用装置の中でどうしても燃料使用装置を変更できない場合には、少しでも燃料の消費を減らして排出量を減らすことが対策となります。そこで対象となるのが同じ装置で省エネタイプ・燃料消費が少ない装置に転換できないかを検討することになります。即ち燃料が変えられなければ使用量を減らす方法、効率化を考えるということです。
またもう一方の削減方法としては、そもそも装置の使用時間を減らして燃料の使用量を削減する方法です。まさに省エネ・削減対策による方法になります。先ほどのクルマの例で例えると、通常の内燃機関車をより燃費の良いハイブリッド車に変えるような手法がこれにあたります。
方法② 化石燃料装置を代替できる電動装置に転換する
もう一つの具体的な方法が電動の装置に変えることです。電動装置に変えても排出量をゼロにすることはできませんが、電気の方が今後の技術革新も含めて省エネ・節電がしやすくなること、再生可能エネルギー等最終的な発電方法の転換で排出ゼロにすることが装置を変えずに簡単にできるからです。ただ、軽油ボイラーやガス炉など大量の熱が必要な装置に代わる電気装置があるのか?同様のコスト、性能でものづくりができるのかなどには留意が必要です。
同じようにクルマの例で例えると電気自動車を社用車にしておけば、排出ゼロにすることは見通せるのですが、長距離輸送が可能な電気トラックが市場に出回っているかというとそうではないので、そこは状況を見て対応していくことが必要になります。大きな方向性として電動化を進めるということが化石燃料から転換する重要で有効な方法になるのです。
方法③ 水素・バイオマス・アンモニアなどを燃料とする装置に転換する
そして3つ目の方法が排出がゼロの燃料に転換することになります。次世代のクリーンエネルギーとして最も注目されているのが水素です。燃焼しても二酸化炭素を発生しないクリーンエネルギーとして利用拡大が期待され、装置・利用の開発が進んでいますが製造・供給の技術・インフラの整備・システム開発にまだまだ課題も残されています。
また次世代環境エネルギーとして注目されているのがバイオマスやアンモニアなどの代替エネルギーです。バイオマスは木材燃料なので実際の燃焼時には二酸化炭素を発生するのですが、木材が森林として生育していた時に二酸化炭素を吸収していたので、新たな発生分を相殺してゼロカウントとすることができます。また、アンモニア混焼は燃焼時にCO2を出さない、比較的設備改修が容易などの特性で注目されている技術です。先ほどのクルマの例で例えると、ガソリン自動車を水素燃料電池車に転換するという事ですが、現実的に水素ステーションのインフラ整備はごく一部に限られているので、そういう面も十分に検討していく必要があります。
最後に「燃料転換・電動化」により得られる成果について確認してみましょう。
3つの成果
成果① 直接排出量を削減・ゼロ化できる
本プロセスの最大の特徴になるのが排出量をゼロにすることができるところにあります。化石燃料の使用をゼロにすることで、即排出量をゼロにすることができることが明確になります。方法論で検討したように装置の仕様変更・省エネ化、電動化による削減、水素などの代替燃料使用によるゼロ化などが実現可能なのです。特に製造業等ものづくり企業においては第1段階の最も有効な対策となりうるでしょう。
成果② 水素・バイオマスなどの新燃料の可能性と転換が進む
次世代のエネルギー開発と連動して期待できるのが水素・バイオマスなどの新燃料への転換の可能性になります。水素の利用は排出ゼロ化が可能となり、同時に水素燃料市場が拡大していき、コストダウンにつながる可能性まで秘めています。また水素エネルギーの導入は削減対策・排出ゼロ化機能だけではなく、新たなエネルギーシステム、発電・蓄電システムとして大きなエネルギーシステムへの拡大も可能なので、導入することでエネルギー・電力システム全体を抜本的に変えていくことも可能となり、トータルな省エネ・節電メリットの享受が期待できるものとなります。さらに同時に導入によるブランドイメージ向上につながる対策にもなりえるでしょう。
成果③ 電動化への転換で再エネ導入による排出ゼロへの見込みを高める
第3の成果としては排出削減に直接効果が期待できない電動化の推進です。なぜ電動化が将来的に有望な対策になるかというのは、先ほど述べたように、効率化が比較的容易で、今でもエネルギー源を100%再生可能エネルギーに転換可能だからです。
脱炭素対策の最も効率的な対策として挙げられているのが「再生可能エネルギー」による排出ゼロの発電になります。すべての電力が再生可能エネルギーで発電されれば一気に課題が解決するということです。そのためにはエネルギー源が電力であることが条件になります。そこでこのステップで使用する装置類を極力電動化しておくことで将来的に「再生可能エネルギー」導入のメリットが最大活用できることになるわけです。
以上により「脱炭素計画」の第3ステップとなる「燃料転換・電動化」を有効に進めることが期待されます。
ここまで「脱炭素計画」策定の第3ステップとなる燃料転換・電動化の「目的」「方法」「成果」を見てきました。また、企業が「脱炭素計画」策定をする方法、手順は概ね以下のように決まっています。
次のコラムではステップ4「省エネ・節電推進」に関して詳しく解説していきます。
執筆者
鷹羽 毅(たかは たけし)
略歴:神戸大学 教育学部 卒業。株式会社富士経済で環境やエネルギー、マーケティングなど長年産業調査アナリストとして各種調査に携わる
専門分野:市場調査、業界リサーチ分析、各種マーケティング戦略検討、カーボンニュートラルや低・脱炭素経営計画、事業開発のコンサルティングなど
専門業種:環境・エネルギー、エレクトロニクス、機械、素材等各種製造業やサービス業まで幅広に対応
資格:中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー、商工会議所専門相談員、産業調査アナリスト、マーケティングプランナー
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