6ステップで進める「脱炭素計画」
企業がカーボンニュートラルの経営を実現するためには6ステップの計画策定が必要になります。
それは以下のようなステップです。
- 【ステップ1】教育・研修・人材育成
- 【ステップ2】排出量算出・見える化
- 【ステップ3】燃料転換・電動化
- 【ステップ4】省エネ・節電推進
- 【ステップ5】再エネ電力導入
- 【ステップ6】制度活用・認証取得
過去3回、ステップ1の教育・研修・人材育成、ステップ2の排出量算出・見える化そしてステップ3の燃料転換・電動化に関しては既にこのコラムでご紹介していますので、そちらを参考にしてください。
先ず「省エネ・節電」とは何なのか
GX実現のために必要となる脱炭素計画における「省エネ・節電推進」を説明する前に、そもそも省エネ・節電とは何をすることなのか、省エネと節電の違いは何なのかについて考えてみます。
この脱炭素経営などと言われ始める前からも、省エネ・節電という言葉はよく使われていました。例えば夏場の電力消費量が増加するときに省エネ・節電が呼びかけられることがよくあります。さらには、そもそも家庭や会社などで経費節減の対策として省エネ・節電を進めることも日常的に実施されています。無駄な照明を消したり、エアコンの設定温度を高く設定したりすることなどのことです。そしてこれらは主として電気代を少しでも安くすることが目的でした。今回の脱炭素計画においても、最も目に見えるメリットとして挙げられるのがこの「省エネ・節電推進」におけるコストダウンになっています。
そして、省エネと節電の違いとは何でしょうか?
どちらも上記の目的・メリットが得られる方法として共通していますが、快適にできるかできないかがポイントになります。
「快適に使用量を削減すること」が省エネで「快適性をある程度犠牲にしてもエネルギー使用量を削減すること」が節電になります※。省エネ製品に変えて快適になる方法と明るさや温度を調整して、少し我慢して過ごす方法という事になるわけです。このように説明されると、省エネと節電の違いがなんとなくわかるような気がしますね。
※参考:日本冷凍空調学会:最近気になる用語「節電」より
それでは、今回はGX実現のために必要な脱炭素計画において必要な4つ目のステップ「省エネ・節電推進」をどのように進めて行くのか見ていきます。
【第4ステップ】省エネ・節電推進
GX実現、脱炭素経営を考える場合の計画の第4ステップでは、省エネ・節電を進めて電力の消費量を減らすことが目的になります。特に前の第3ステップで化石燃料を転換し電動化を進めたため、次に電力の消費量を削減することが次の道筋に非常に有効な対策になります。つまり次のステップで再生可能エネルギーによる電力を導入することで低脱炭素を実現するためにも電力消費量そのものをより少なくしておくことが有効となるということです。
更に省エネ・節電というプロセスはエネルギー消費量を削減することができますので、結果として直接的なコストダウンを実現できることもメリットの大きなポイントになります。
3つの目的
目的① 化石燃料や電力の消費量を減らしてコストダウンを実現する
省エネ・節電の目的はエネルギー全体の消費量をより少なくすることであり、化石燃料の使用量や電気の使用量を少なくすることなのでそのまま燃料代、電気代を安くすることになります。燃料・電気の購入量が減少することになるので経営上の経費としてのエネルギーコストダウンにつながり、脱炭素とは関連のない直接的なメリットにもなることが期待できます。
脱炭素のメリットとして通常5つのメリットが挙げられ、その中で直接的なメリットとしてこの省エネ・節電によるエネルギーのコストダウンがあり、特に企業においては脱炭素計画を作成するメリットとして評価する最大の条件となっているものです。
目的② コストの削減と事業の効率化も進む
2番目の目的としては、GXの実現や脱炭素計画を進める中でのメリットが挙げられます。脱炭素計画の推進においては製品の購入やサービスの活用などで様々な経費がかかる可能性があるのですが、省エネ・節電でも当初は省エネ製品購入などの費用がかかる一方で、結果的にエネルギーコスト削減が実現することで費用を回収することが期待できるわけです。計画推進のステップにおいてコスト削減効果の可能性があります。
また省エネ・節電を実践する方法には、省エネに資する部材や製品の導入による方法だけではなく、企業における業務や製造の方法・プロセスの改善・工夫による方法もあることが重要となります。作業時間の短縮や空調・照明の有効な活用などの事業の効率化や働き方改革による省エネ効果を実現することが重要な目的になります。
目的③ 電動・電化への転換により今後の脱炭素対策を進めやすくする
もう一つの目的は、省エネ・節電の推進により結果として電気の消費量を少なくすることができる点にあります。これはその時点での経費削減が実現できると同時にエネルギーの消費規模そのものが小さくなることにつながります。このことは次のステップにおいて脱炭素化への最終ステップとなる再生可能エネルギーの導入量を少なくすることにもつながるのです。二酸化炭素排出量が算定される通常の電気に変えてエネルギー源を再生可能エネルギーに変えることでCO2排出ゼロに向けて進むのですが、できるだけその導入量を小さくすることが重要となります。割高で供給量の制約がある再生可能エネルギー導入のデメリットを少しでも小さくすることにつながるからです。
次に具体的にどんな方法で省エネ・節電を進めて行くことができるのか具体的な3つの方法についてみていきます。
3つの方法
方法① 装置・設備等における高効率・省エネタイプの導入
先ず対策方法の代表的な方法として省エネ効果のある装置・設備の導入になります。高効率な空調機に入れ替え、照明を蛍光灯からLED照明に転換し、さらに電気設備を高効率なものに、即ち電気使用量の少ない製品に入れ替えや新規導入をする方法が中心になります。特にモノづくり関連の装置についてはエネルギー消費の少ない装置転換による大きな削減効果が期待できます。
近年は高効率・省エネ技術の進化が著しく、数年前の同じ製品でもエネルギーの消費量を大幅に削減することが期待できるようになり、新製品の特長でも省エネ性能が重要な指標になってきています。
例えば、この代表例がエアコンやLED照明です。エアコンは、ヒートポンプという仕組みを利用することで、投入エネルギーの6倍以上の効率を実現できるようなレベルにまで達していますし、LED照明も同じ明るさで比較したときに蛍光灯の5分の1程度のエネルギー消費で済むような高効率機器開発され市販されています。
方法② 高気密・高断熱部材を導入してエネルギーのロスを削減する
次の具体的な方法は、建物の壁や窓などに高気密・高断熱な部材を導入することでエネルギーのロスを削減する方法です。装置・設備の入れ替えによる直接的なエネルギー消費削減に対し、特に作業・業務空間の熱エネルギーのロスを削減する間接的なエネルギー消費削減を実現することになります。気密性を高めることによりすきま風などの空気の移動を防ぎ空調負荷を低減し、断熱性能の高い壁や窓などにより外部との熱の出入りを少なくすることが基本的な方法になります。それにより空調エネルギーの削減による省エネルギーとコストダウンが実現することになります。
具体的には気密性を高める封止部材が装着された扉、断熱性能の高い材料の入った壁、さらに複層(二重)ガラスの窓への転換などが考えられます。外部との熱移動を少なくすることで、夏の冷房と冬の暖房効果を高めてトータルのエネルギー消費量を削減できることになります。
方法③ 装置運転方法や作業・業務方法などの改善を進める
最後の非常に重要な手順は、装置・設備の導入などのハード面の対策ではなく、使い方を工夫・改善するソフト面での対策を進めることが挙げられます。例えば高効率な装置・設備についてさらに使用時間を少なくすることにより、また使用温度などの設定レベルを低くすることなどによりエネルギーの消費量を削減することができることになります。また業務全体の時間的な対策として、昼間の業務量を減らし朝夕への時間をシフト(移動)することにより空調コストを削減することも可能となります。さらに近年の働き方改革として在宅・リモート業務の導入などによる改善も期待できます。本来の経営的に作業・業務の効率化を工夫することにより同時にエネルギーコスト削減を実現することができるケースも多く考えられ、その省エネ・節電効果が大いに期待できることになります。
最後に省エネ・節電により得られる成果について確認してみましょう。
3つの成果
成果① 燃料・電気代の削減による直接的なエネルギーコストダウンを実現
本プロセスの最大特徴になるのがエネルギーコストダウンという目に見えるメリットを得られることになります。脱炭素計画の最終目的は温室効果ガス排出削減にありますが、温室効果ガス排出削減は化石燃料の使用削減や電気使用量削減によるものです。それが結果としてエネルギーコストの削減という成果につながることになります。つまり、省エネ・節電により脱炭素経営の直接メリットとなるコストダウンを確実に実現できることになります。
成果② 気密・断熱性向上による間接的なエネルギー消費削減につながる
次の成果として期待できるのが気密・断熱性能向上による間接的なエネルギー消費削減でコストダウンが実現できることです。特にエネルギー消費割合の最も大きな空調分野のコストダウンのためにはいかにしてロスを減らすことができるかが重要となります。空気の漏れや外部の温度の影響を受けないようにすることで、空調温度の設定を適切なものにすることができ結果としてエネルギー消費を抑えることができます。長期的な効果としても重要な対策となることが期待されます。
成果③ 再エネ電力への転換量が削減できて導入コストダウンにつながる
第3の成果としては電力消費量の削減を実現することにより次のステップの再生可能エネルギーによる電力導入量が削減できる点につながることです。基本となる脱炭素経営の最終プロセスとして再生可能エネルギー発電の電力を導入することがあり、それにより温室効果ガス排出をゼロにすることも可能となります。
但しその再エネ電力は調達量が十分ではなくコスト高となる可能性もあるため消費量を削減しておくことが重要となってきます。そこで事前の省エネ・節電の推進により導入量の減少を進めておくことが有効となってきます。そして同時に再エネ電力のコストダウン効果が期待できることにもつながっていきます。脱炭素対策の最も効果的な対策として挙げられているのが再生可能エネルギーによる排出ゼロの発電電力の導入になります。
つまり、すべての電力が再生可能エネルギーで発電されれば一気に課題が解決するということです。そこでこのステップ4でそもそものエネルギー消費量削減をしておくことで「再生可能エネルギー」導入の可能性が高まり、メリットが有効活用できることにつながります。
以上により「脱炭素計画」の第4ステップとなる省エネ・節電を有効に進めることが期待されます。
ここまで「脱炭素計画」策定の第4ステップとなる省エネ・節電推進の「目的」「方法」「成果」を見てきました。
また、企業が「脱炭素計画」策定をする方法、手順は概ね以下のように決まっています。
次のコラムではステップ5「再エネ電力導入」に関して詳しく解説していきます。
執筆者
鷹羽 毅(たかは たけし)
略歴:神戸大学 教育学部 卒業。株式会社富士経済で環境やエネルギー、マーケティングなど長年産業調査アナリストとして各種調査に携わる
専門分野:市場調査、業界リサーチ分析、各種マーケティング戦略検討、カーボンニュートラルや低・脱炭素経営計画、事業開発のコンサルティングなど
専門業種:環境・エネルギー、エレクトロニクス、機械、素材等各種製造業やサービス業まで幅広に対応
資格:中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー、商工会議所専門相談員、産業調査アナリスト、マーケティングプランナー
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